顧客の生活から、事業を捉え直す。

顧客の声やデータを集めても、事業開発や営業・サービス改善に活かすことは容易ではありません。
生活世界マーケティング研究会は、事業のあり方を検討する材料として、顧客の経験を生活の文脈から可視化します。

Background

背景

購買データや行動ログは、何が起きたかを教えてくれます。アンケートは、顧客の評価や意識を示してくれます。しかし、プロダクトやコミュニケーションが顧客の生活の中でどのように意味を持ち、どのような経験を通じて価値として受け止められているのか。その背景にある選択の論理までは見えてきません。
顧客にとっての価値は、購買や接点の瞬間に突然生まれるものではありません。日々の生活経験の中で、少しずつ形づくられているからです。

Challenge

課題

顧客の経験を丁寧に聞き取っても、その理解は担当者ごとの解釈や感覚に依存しやすいものです。
部門や立場によって読み取りが分かれ、顧客にとっての意味や選択の背景を、事業開発、営業、サービス改善の議論に接続することは簡単ではありません。

  • 意味を読み取りにくい

    顧客の声や行動の背後にある意味が読み取りにくい 同じ声やデータを見ても、顧客にとって何が価値として経験されていたのかが見えにくい。
  • 理解が属人化する

    顧客理解が担当者に依存し、他者と共有されにくい 事業開発、営業、サービスの現場にある顧客理解が、担当者の経験や感覚に閉じやすい。
  • 議論につながりにくい

    調査結果や現場の知見が、事業開発、営業、サービス改善に接続されにくい 調査結果や現場の知見が、事業開発、営業、サービス改善の議論に接続されにくい。

顧客理解を組織の知見にするには、
顧客の経験を、検討できる形にする方法論が必要です。

重要なのは、顧客の声を単に要約することではありません。選択に至るまでの出来事、分岐点、意味づけ、関係性の変化を整理し、他者と吟味できる形にすることです。

顧客の経験を、
生活世界から捉える

顧客の選択は、購買の瞬間だけで形づくられるものではありません。過去から現在、未来への見通しにまたがる時間的文脈と、家族、職場、地域、文化などの社会的文脈の中で形づくられます。
プロダクトやコミュニケーションが生活の中に取り込まれ、意味を持ち、価値や関係性として経験されていく過程も、顧客の生活世界の中にあります。

Approach

TEA(複線径路等至性アプローチ)は、人びとの経験を非可逆的な時間の流れに沿って捉える質的研究法です。ある結果に至るまでの複数の可能な径路、分岐点、社会的・文化的な力に注目し、経験のプロセスを検討します。
当研究会では、TEAを顧客理解に応用し、生活世界に埋め込まれた顧客の経験を、研究者と実務家がともに検討できる形に可視化します。

選択と行為の連なりを、多面的に捉える

  • 01選択に至る径路を描く

    顧客がある選択に至るまでの経験を、非可逆的な時間の流れに沿って整理します。購買の瞬間だけでなく、そこに至るまでの出来事、経験の積み重なり、意味の変化を含めて、経験の径路を描きます。

  • 02分岐点に働く力を探る

    選択に至るプロセスの分岐点に注目し、そこでどのような意味づけや関係性の変化が生じていたのかを検討します。実際に選ばれた径路だけでなく、選ばれなかった可能性も含めて見ることで、選択の機微を捉えます。

  • 03図をもとに対話する

    顧客の経験をTEM図として可視化し、対話を通じて解釈を深めます。図を共有することで、個人の中にとどまりがちな顧客理解を、他者と吟味し、更新できる知見にします。

Applications

  • 価値の芽を捉える

    価値の芽を
    捉える

  • 意味を問い直す

    意味を
    問い直す

  • 関係性を捉える

    関係性を
    捉える

顧客の経験を、どう可視化するか

TEAでは、購入、継続、離反、推奨といった注目する結果を起点に、そこに至るまでの顧客の経験を時間の流れに沿って整理します。
プロダクトやコミュニケーションが生活の中でどのように意味を持ち、ブランドとの関係性がどのような経験を通じて形づくられ、変化していくのか。実現されなかった可能性も含めて検討し、選択に至る径路をTEM図として可視化します。

TEM図では、時間の流れ、選択の分岐点、選ばれた径路、選ばれなかった可能性、後押しとなる力、妨げとなる力を整理します。これにより、顧客がどのような経験の流れの中で選択へ向かったのかを検討できます。

顧客の選択に至る経験の径路を示したTEM図の例

※図は、顧客の経験を時間的な径路として整理するためのイメージです。個別の分析では、インタビュー内容や検討目的に応じて構成が変わります。

また、インタビューデータの整理やTEM図作成を支援するAIシステムの開発にも取り組んでいます。これは顧客理解を自動化するものではなく、研究者・実務家が解釈を深めるための補助的な仕組みとして位置づけています。

Uniqueness

カスタマージャーニーは、顧客接点を整理し、体験上の課題を見つけるうえで有効な方法です。一方で、顧客の購買や選択は、企業との接点だけで形づくられるわけではありません。購買の前から続く生活経験、家族や周囲との関係、過去の記憶、将来への見通しの中で、プロダクトやブランドの意味は少しずつ形づくられます。
TEM図は、顧客の経験を、企業との接点の連なりではなく、生活世界の中で形づくられる径路として捉えます。実際に選ばれた径路に加えて、分岐点での別の可能性や、ブランドとの関係性が変化していく過程も含めて描く点に特徴があります。

カスタマージャーニー

  • 企業との接点を中心に整理する
  • 購買前後の行動や感情を把握する
  • 接点ごとの課題や改善点を見つけやすい

TEAによる顧客理解

  • 生活世界の中で経験の径路を捉える
  • 分岐点、意味づけ、関係性の変化を検討する
  • 選ばれなかった可能性も含めて理解する

両者は対立するものではありません。カスタマージャーニーが接点を改善するための地図だとすれば、TEAは、その接点の背後にある生活経験や関係性の変化を読み解くための地図です。顧客理解をより深めるために、両者を組み合わせて用いることもできます。

Vision

展望

顧客理解は、一人の経験や感覚だけでは深まりきりません。
顧客の経験を見える形にし、他者と吟味することで、一人では気づきにくい意味が見えてきます。
研究者と実務家がともに顧客理解を深め、生活の中で価値が生まれる過程を考える。
それが、当研究会の目指すところです。